法科大学院院長からのご挨拶
長い歴史のなかで育まれた独自の豊かな文化を有する沖縄では、平和を希求する人々の生活が営まれるとともに、地域特性を重視した自立型経済の構築が企図されてきました。また近時は、東アジアの中心に位置するという地理的優位性を活かし、アジア・太平洋地域の発展に寄与する拠点としての役割が期待されています。しかしその一方で、現在でも米軍専用施設・区域が集中していることや、県民所得は全国下位にとどまり、失業率も全国平均に比べ高い水準で推移し、子どもの貧困も深刻であることなど、さまざまな社会問題はいまだ解消されていません。
琉球大学法科大学院は、このような沖縄にあって、地域の人々から深い信頼を得て、地域に生起する法的問題を解決する能力と、地域の問題を国や世界に発信する能力を有し、併せて性的指向や性自認を含む性の多様性を尊重することができる法曹を養成しようとしてきました。沖縄で法曹として活躍するためには、その社会的使命・責任を自覚し、沖縄が抱える問題が地域に限局された問題ではなく、わが国共通の問題であることを多くの人々に理解してもらう努力が欠かせません。また、LGBTQに代表される各人の多様な生き方に理解を示す法曹が求められています。地域社会の現実を見極め、柔軟な法的思考に基づいて大所高所から議論できる能力をもった法曹を目指してほしいと思います。
法曹となるためには、体系的な法的知識を修得し、法的分析・推論能力や法的議論・表現・説得能力を高める必要があることはいうまでもありません。琉球大学法科大学院では、16名の専任教員が研究者と実務家とで協力し、沖縄弁護士会や地方自治体、企業等のご支援も受けながら、入学から修了、そして司法試験合格に至るまで、親身に教育・学修指導を行います。入学定員16名の小規模校ならではの面倒見のよさに期待してください。
法は、社会の秩序を維持するためのものですから、その主たる目的が法的安定性(平和)の確保にあることは当然ですが、これに加えて正義の理念が法に求められることによって、法としての価値が認められます。法の守護者ユスティテアの像は、よく知られているように、一方の手に秤を持って公平・正義の擁護を、他方の手で剣を掲げ紛争の解決・平和の創出を象徴しています。法に携わるすべての者は、努力と反省を重ね、平和と正義を追求する使命を課されているのです。沖縄で法を学び、沖縄が抱える問題を通じて、法の存在意義についてあらためて考えてみましょう。
琉球大学法務研究科長 久保田 光昭